映画「ロード・オブ・ザ・リング」第二部「二つの塔」で、オークたちから逃れたメリーとピピンが出会う「木の髭」。
映画では、樹木に目鼻があり、枝・根が手足のように動く姿で登場します。
彼はエントという種族ですが、どのような存在なのかは、映画ではあまり多くは語られません。
この記事では、原作「指輪物語」から、エントについてわかることをご紹介します。
まずエントたちの外見について、映画と原作のずれを焦点に解説します。
また、映画で言葉だけ出てくる「エント女」とは、いったい何者なのでしょうか?
エントの外見について……映画の「木の髭」には不満も
映画では、木の髭は「目を閉じてじっとしていたらまるで木」という姿で登場します。
ピピンは初めて出会ったとき、エントを普通の木だと思って登っていました。
のちに登場するほかのエントについても、ほとんど木ような姿という点はあまり変わりません。
この映画のエントたちについては、不満の声もよく聞きます。
というのも、原作で説明されるエントの姿は、あそこまで木に近くないように思われるからです。
木の髭について、外見に関する記述を原作からご紹介しましょう。
「大きな人間のような姿をした者」
「背の高さは少なくとも14フィート(約4.2メートル)」
「頭部は長頭で、頸(くび)はないも同然」
「非常にたくましい体つき」
「体にまとうものは、緑がかった黒ずんだ木の皮の類か、この者の地肌なのか、どっちとも判じかねました」
「両の腕は胴からさほど離れていないところでは、皴も寄らず、滑らかな茶色の皮膚で被われていました」
「大きな足には指が七本ずつ」
「長い顔の下半分は引きずるような灰色の顎髭」
「もじゃもじゃ髭は根本はほとんど小枝のよう、先端は細くなって苔のよう」
いかがでしょうか?
頸がない、木の皮をまとっているよう、の部分はやはり木を連想させます。
しかし、皴のない茶色の皮膚、灰色の顎鬚という特徴からは、木とは違う姿を思い浮かべませんか?
何よりも、最初に「人間のよう」とはっきり書いてありますからね。
ところで、初めてその姿を目にしたメリーとピピンは、木の髭のある部分以外にはほとんど注意をはらっていませんでした。
その「ある部分」は、上でご紹介した記述には出てきません。
メリーとピピンが目を奪われたのは、木の髭の何だったのか?
それは原作を読んでのお楽しみです!
エント女とは?エントたちが少ない理由
映画で、木の髭のセリフに「エント女」なるものが出てくるのにお気づきでしょうか?
木の髭は、メリーとピピンに「エント女を見かけなかったか」と聞きます。
原作を読むとわかるのですが、エントたちは長い歴史の中で、エント女を失くしてしまったのです。
エントとエント女がいれば、エントっ子が産まれ、エントたちは増えていきます。
しかしエント女を失くしたため、エントたちの数はとても少なくなってしまいました。
ところで、「失くした」とはどういう意味でしょうか。
「わしは死んだとはいっておらん。……失くしてしもうて、見つけられないのよ」
これが、エント女について語る木の髭のセリフの一部です。
木の髭によると、エントとエント女は望むものが違ったため、だんだん違う生き方をするようになってしまったのです。
この辺りは原作で、木の髭がかなり長々と語ります。
その中から、エントとエント女の生き方が違ってしまったことがわかる一部分をご紹介しましょう。
「エント女たちは庭を作って住んだ。だがわしらエントたちはなおもほっつき歩くことを止めず、庭には時たま行くだけだった」
エントがエント女の庭を訪れる頻度は、どんどん減ってゆきました。
そしてある時エントたちがエント女の庭を訪れた時、そこは不毛の荒れ地となり、エント女たちはいませんでした。
その土地で、戦争が起こったためです。
それから、エントたちはエント女を探しているのです。
エントたちは、出会った者にはだれにでもエント女のことをたずね、遠くまで歩きました。
そしてエルフたちが、エントがエント女を探して回ったことをたくさんの歌に作りました。
木の髭の、エント女への想いがよくわかるセリフがこちらです。
「わしらは信じておる。わしらはいつかふたたび相会うことがあろうと」
「そして多分わしらがともに暮らせる、そしてともに満足し得る土地をどこかに見いだせるじゃろうとな」
木の髭の語りから、彼が若いころ、あるエント女に想いを寄せていたことがわかります。
彼女の名前は、フィンブレシルといいます。
こんなエピソードを知ると、エントたちが、より人間に近いイメージになりませんか……?
おわりに
この記事は、主に「指輪物語」第2部「二つの塔・上」4「木の髭」を参考に作成しました。
初めの方に、木の髭の外見についてまとめて記述されています。
それ以外にも、メリーやピピンとのやり取りの中で、エントの生態についてわかる部分がたくさんあります。
また、エント女についてはかなり要約してご紹介しています。
エントとエント女については木の髭が語りますが、とても詩的で美しい物語のようです。
合間にエルフの歌も出てきたり、読み応えのある章ですよ。