映画「ロード・オブ・ザ・リング」でガラドリエルといえば、水鏡のシーンが印象的です。
また、フロドが差し出す指輪を前に、声色や容姿が別人のようになる彼女。
その直後のセリフ「……試練に勝った!」とは、どういう意味なのでしょうか?
そして見落としがちですが、映画の冒頭にも彼女は登場しています。
サウロンの指輪以外の、力のあるいくつかの指輪について語られる場面。
エルフが所持する3つの指輪のうち、一つを身に帯びているのがガラドリエルです。
ガラドリエルは、サウロンの指輪に人一倍関心を抱いていたことでしょう。
サウロンの指輪とその他の力のある指輪は、相互に影響しているからです。
自身も指輪所持者である彼女は、フロドの差し出す指輪を前に、何を思ったのでしょうか?
ガラドリエルの試練とは?
ガラドリエルの試練とは「指輪の誘惑に負けず、それを手に取らないこと」です。
映画でも原作でも、フロドは自分から、ガラドリエルに指輪を差し出しています。
そして彼女も、指輪に誘惑されていることを自ら認めています。
原作で、フロドに指輪を差し出されたガラドリエルの言葉がこちらです。
「長の年月、万に一つあの大いなる指輪がわが手に入ることがあれば、わらわにはいかなることができようかとつらつら考えて来た……」
ほぼ不死のエルフである彼女が「長の年月」と表現するほどです。
ガラドリエルがどれほど指輪のことを思っていたかは想像に難くないでしょう。
なぜ彼女が指輪を受け取ってはいけないのかは、ガンダルフがそうであるのと同じ理由です。
もともと大きな力を持っている彼女が指輪を手にしてしまうと、強くなりすぎてしまいます。
また、指輪は必ず持ち主を悪事へ誘うので、強大な力を得た彼女は、いずれサウロンと同じ冥王となってしまうのです。
ガラドリエルが指輪を前にして、まさに試練を受けている場面。
映画では、声色が変わり、その姿は色彩が反転し光を発しているように見えます。
原作では、この時の彼女の姿はこう表現されています。
「測りがたいほど高く、耐えがたいほど美しく、戦慄すべき恐ろしさとともに、あがむべき尊厳さを備えていました」
それは、彼女が指輪の誘惑に負けて女王となってしまった時の姿だったのかもしれません。
ガラドリエルが持つ指輪とは
ガラドリエルは、力のある指輪を所持しています。
これについては、DVDのエクステンデッドエディションでは描写がありますが、劇場公開版ではカットされていたと思います。
映画の冒頭で、昔いくつかの力のある指輪が作られたことが語られますよね。
エルフが持つ3つのうちの一つ「ネンヤ」を、ガラドリエルが所持しているのです。
ガラドリエルはこの指輪の力で、彼女が住まう「ロスロリアン」の地を繁栄させ、守っています。
これら力のある指輪は、サウロンが指輪を取り戻した場合、それに支配されてしまいます。
そうなると、ガラドリエルはロスロリアンを守れなくなります。
彼女はこのことに危機感を抱いていますが、同時に、別の憂いもありました。
サウロンの指輪が破壊された場合、ほかの指輪も、その力を失ってしまいます。
すべての指輪は作られた方法が同じだからか、その作用が連動しているようなのです。
ガラドリエルの指輪は、ロスロリアンの守りだけでなく、繁栄の基となっています。
ということは、サウロンの指輪が破壊されると、ロスロリアンも衰退してしまいます。
つまり、指輪を葬るというフロドの使命が失敗しても達成されても、ロスロリアンは滅びてしまうのです。
自分がサウロンの指輪を手にしたら、別の未来があるかもしれない……という想いも、ガラドリエルにはあったのではないでしょうか。
さらに、このことが彼女の試練をより大きいものにしていた、とも考えられませんか?
ガラドリエルの水鏡をのぞいたサム。見たものと願ったことは
シーンが前後しますが、映画ではガラドリエルの試練の前に、フロドが水鏡をのぞきますよね。
原作では、水鏡をのぞくのはフロドとサムの二人です。
フロドは「水鏡を見てみたいか」というガラドリエルの問いに答えず、先にサムが水鏡を見ることになります。
そしてサムが見たものは、彼の言葉を借りると「ホビット庄で何か怪しからんことが起こってる」光景でした。
サムは狼狽し、「くにに帰るんじゃ!」とまで言い出します。
(彼が何を見たのかは、物語の終盤の内容に関係があるので詳しくは語らないことにします)
この後フロドが水鏡をのぞき、ガラドリエルの試練のシーンがあります。
その過程のやり取りは、力のある指輪を持っている者同士でないとわからないものだったようです。
サムは、最後にこう言います。
「おら、お二人でいったい何を話しておいでなさるのかなあと思っていましただ」
サムの言葉はこう続きます。
「奥方様が指輪を受け取ってくださったらなあ。あなたさまはなんでもちゃんと元へ戻してくださる」
「汚ねえことするやつらをこらしめていただけますだね」
この時のガラドリエルの答えが、サウロンの指輪の性質を簡潔に表現しています。
「そうしてあげましょう」
「といったふうに始まるのですよ。しかし、悲しいかな、それだけですみはしないでしょう!」
彼女は、自分がサウロンの指輪を使ったらどうなるか、十分すぎるほどわかっていたのです。
おわりに
この記事は、「指輪物語」第一部「旅の仲間・下」7「ガラドリエルの鏡」を参考に作成しました。
メインの水鏡のシーンだけでなく、旅の仲間それぞれの想い、それによる微妙な関係の変化なども繊細に描かれています。
この後彼らに起こる出来事を予感させる不穏な空気の一方で、ロスロリアンの美しい風景も目に浮かぶような章です。