「指輪物語」の主要な登場人物、フロドとサム。
映画「ロード・オブ・ザ・リング」だけを観た人は、サムがフロドに敬語を使っていることに疑問をお持ちではないでしょうか?
この二人の関係については、これからご紹介する原作の知識があると、すんなり納得できることでしょう。
そしてサムがフロドと旅に出るに至った経緯と、その背景についてもご紹介します!
サムは雇用主であるフロドに敬語を使っている
サムは、フロドの屋敷の庭を手入れするために雇われています。
この関係は、先代ビルボ・バギンス氏と、サムの父親であるハムワイズ氏(通称「とっつぁん」)から続くものです。
とっつぁんは約40年ビルボの庭の手入れをしてきました。
しかし物語の始まりの頃には、加齢により手足がきかなくなり、息子のサムにその役目をほぼ引き継いでいました。
とっつぁんとビルボは、大変良い関係にありました。
ビルボはとっつぁんに敬意をこめて「親方」と呼び、野菜の育て方についてはいつも意見を聞いていました。
また、ビルボはサムに読み書きを教え、とっつぁんはそのことをとても感謝しています。
このような背景があるので、とっつぁんは後継のフロドのことも大変評価しています。
ビルボとフロドは同じ村の住人から変わり者扱いされることもあったのですが、とっつぁんはそんなときでも常に二人の味方をします。
この良い関係が、フロドとサムにもそのまま引き継がれているのです。
二人には単なる雇用関係だけでなく、信頼と親愛に満ちた絆があるといえるでしょう。
サムはなぜ、フロドと旅に出たのか?
サムはなぜ、フロドと指輪を葬る旅に出たのでしょうか。
最終的にそれを決めたのはガンダルフですが、実はサムは自分から、フロドの旅のお供をさせてほしい、と申し出ています。
フロドが旅に出る前、ガンダルフがフロドの屋敷で、指輪の正体とその脅威について語ります。
この時ちょうど庭の手入れをしていたサムは話を盗み聞きし、ガンダルフに捕まってしまいます。
なぜサムは、ガンダルフの話を盗み聞きしたのでしょうか?
それは、ガンダルフの話の中に「エルフ」という言葉が出てきたからです。
サムはエルフに強いあこがれを持っており、一度その姿を見てみたいと思っていました。
だから「エルフ」という言葉を聞いて、どうしても話を聞きたくなってしまったのです。
そしてサムは話の流れから、フロドが旅に出るということ、その旅でエルフに出会えるかもしれないということを知ります。
そこでフロドに、「おいらも一緒に連れてって、エルフを見さしてくだせえ」とお願いするのです。
ちなみに、サムがエルフにあこがれるようになったきっかけを作ったのはビルボです。
ビルボはサムに読み書きを教えながら、竜やエルフが出てくる昔話を聞かせていました。
すっかり魅せられてしまったサムは、エルフへのあこがれを口に出して父親にたしなめられたりします。
大半のホビットにとってエルフは、存在するかどうかもはっきりしない、夢のようなものだったのです。
フロドと旅に出れるように言われ、サムは涙を流して喜びます。
これはエルフに会えるから、というのもあると思いますが、慕っているフロドと一緒にいられるからという理由も大きかったのでしょう。
いずれにしろこの時点では、サムは指輪の脅威や旅の過酷さについてはあまりわかっていなかったと思われます。
映画「ロードオブザリング」でのサムの活躍ぶりについて
サムは結局、初めに9人いた「旅の仲間」のうち、唯一最後の目的地である「滅びの亀裂」まで同行することになります。
彼は旅の過程で、大いに活躍します。その設定自体は原作・映画ともに同じなのですが……
映画が公開されたころ、一部でサムの活躍ぶりが話題になっていました。
挙句に、この物語の主人公はサムなんじゃないかという声まで……
対して、フロドは頼りないとか、むかつくとか、無能とかひどい言われようです。
これに関して、私の個人的な見解を述べさせてもらおうと思います。
確かに、映画のサムはとっても活躍しますし頼りになります。
対してフロドは自分の運命を嘆いたり、ふらふらしてサムに担がれたり、しばしば指輪の誘惑に負けそうになったりします。
この描写をそのまま受け止めれば、「サムが主人公」という印象もわからなくもありません。
しかし私は、ここに指輪の脅威が表現されているのではないかと思いました。
つまり、指輪はそれだけ心をむしばみ、所持者の体力・気力ともに著しく低下させてしまう 恐ろしいものだということではないでしょうか。
原作では折に触れ、指輪の誘惑とそれに負けそうになる所持者の葛藤が書かれています。
言葉ではっきり表現されているので、指輪の「心への影響」が強く印象に残ります。
一方映画では、その葛藤が視覚的な情報、役者さんの表情とかで表現することになるので、人によって印象は様々になるのでしょう。
もちろん映画でも文学でも受け止め方は自由ですので、「サムが主人公」というとらえ方も別に間違ってはいないと思います。
おわりに
以上、「指輪物語」の、フロドとサムの関係性についてまとめてみました。
この内容は主に、「指輪物語」第一部「旅の仲間・上」1「待ちに待った誕生祝い」~2「過去の影」を参考にしています。
私は特に、映画に登場しない「とっつぁん」が語る場面がお気に入りです!